第一章
 
弾性運動(掤勁)の掌握

(1) 掤勁習得には力みや硬直の徹底除去が不可欠――動作を行う際、例えば重いものを持つとき等には力を使う。人々は幼い頃から気合を入れて重いものを持ち上げるという習慣がついている。気合=いきむ、と考えても良い。これを拙勁という。

 太極拳が必要とするのは全身を放長させるバネのような勁である。これを獲得する為には練習を二つの段階にわけて行う必要がある。まず最初は力みを消去する段階、次にスプリングの勁とでも呼ぶべき新しい勁を発生させる段階である。よって拳論には“勁の運用とは百回も鍛えられた鋼のようなものであり、何者にも壊されることは無い※①”と述べられている。これはほんの少しの拙力をも使わず百鍛千練し、併せて各種の異なる放長と鬆開(緩めて開く)の姿勢のもと絞りに絞ってこね回す動きを行ってこそ非常に柔軟な境地に達し、元々あった強張った勁を消すことができる。逆にいうと時間をかけて勁を動かす鍛錬をしつづけさえすれば、硬さやこわばり等は全てどこかへ吹き飛んでしまうのである。これは先人達の経験を総括したものであり、硬さを溶かし柔らかく変えていく作業は絶対に不可欠である為、特に初心の段階でこれを軽視してはならない。この作業は時間をかければかけるほど良い結果を生む。なぜならこれを経なければ徹底的な柔軟さというものを獲得できないからである。もし柔軟さが中途半端であると、将来において柔が少なく剛ばかりになり、非常にバランスを欠いたものになってしまう。

※①『行功心解』は架式を行う際の理論に関する文献であり、推手を行う際の基準ではない。

(2) 掤勁は人体が先天的に持つ勁にあらず――前述したとおり、掤勁は八つの勁の基本である。掤勁は弾力性からうまれる。このような弾性の勁は、筋肉が本来持っている弾性だけではなく、筋肉の弾力という基礎の上に骨格や人体等と筋肉が強調しあって放長する中で鍛えられるものである。よってこれは人々が生まれつき持っている勁ではなく、必ず長い時間をかけて修練してはじめて身につく勁なのである。この勁はまず全く何も無いゼロの段階から転じて勁を有する、という状態に変化し、その後一応勁が有るというだけのレベルから強い掤勁を発揮できるというレベルにまで至る。

 この種の弾力のある掤勁の習得には、拳譜の中で述べられている四つの規定に従って行うべきである。そのコツはまずなんといっても意を用いることから着手することであり、意識の中で放長を常に心がけることである。これを長期間運用し、さらに身体上での具体的な放長を合わせると偏差を引き起こしにくくなる。

(3) 神聚氣斂は弾力と掤勁強化の基礎――身体を放長させた状況で精神を奮い起こし集中すると、気を沈みこませ内部に集めることができる。これは一種の自然現象である。逆にいえば、神聚氣斂、つまり神を集中させ気を収めることさえすれば、意識に中に放長の姿を備えさせることが可能であり、身体の放長を促進させ、弾力と掤勁の強化が可能である。神聚氣斂の瞬間、筋肉群にはさらに十分な収縮がおこり、同時に緊張筋(抗重力筋)群により大きなリラックスがもたらされる。そのため、リラックスと収縮の訓練を長期間くりかえすと、自然に身体各部の弾力性が強化され、身体能力がアップする。

 第二の特徴をさらに把握しやすくするため要点を以下の5つにまとめる。

(1)太極拳は主に掤勁を鍛錬する。掤勁は弾性から生まれ、弾性は身体の放長から生じる。よって身体の放長に注意を向ける必要がある。

(2)体幹部および上半身を放長させるには、かならず虚領頂勁、氣沉丹田、含胸拔背が達成されていなければならい。

(3)手足を放長させるには、かならず沉肩墜肘、鬆腰圓擋と開跨屈膝の旋回ができていなければならない。

(4)掤勁を練習する際、まず最初に綿のような柔らかさを求めて元から備えている拙力を捨て、同時に放長によって弾力のある新た勁を生じさせる

(5)神を集め気を収めて初めて、掤勁の内在因子を強化することができる。

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